#139 最後の退院

退院後後期
※ここからの記事は闘病中の方に不安を持たせてしまう内容の可能性があります。心の準備が整ってからお読みいただくか、スキップしていただくことをお勧めします。皆様のご理解をお願い申し上げます。

 

9月1日(木)

今朝も息子が朝食を食べている動画を送ったり、息子が育てている朝顔の写真などたくさん送った。

だけど、全然既読が付かない・・・

 

息子を幼稚園に送った後、9時頃に先生から電話がかかってくる。

昨日、腎ろう増設術をしたわけだが・・・(以下、参考記事)

先生曰く「全然尿がでていない」とのことだ。

「かなり厳しい状況で、この先のことも考えないといけない」と言われました。

「とりあえず午前中に一度旦那さんと話をしたい」とのこと。

 

すぐに病院へ向かった。

 

診察室に入り先生と二人で話をする。

先生が言うには

「腎ろう増設したが尿が出ず、利尿剤も注射したが尿がでる気配がない」

「尿が作られている感じがしない」とのことだ。

 

「腎不全に近い状況である」と・・・

腎不全とは・・・腎炎などの病気で、血液を濾過する「糸球体」の網の目がつまってしまうと腎臓の機能がおち、老廃物を十分排泄できなくなります。このような状態を腎不全といいます。・・・腎不全が進行してきますと・・・尿毒症性物質が体内にたまり・・・このまま放置すると死に至ります。(国立循環器研究センター(https://www.ncvc.go.jp/hospital/))

 

普通の人なら、すぐにでも人工透析をしなければいけない状況らしい。

だけど、妻は当然できるわけもなく・・・

 

つまり、これ以上病院でやれることはなくなってしまったようだ。

 

そして「このまま尿が出なければ1週間以内に・・・ということも考えられる」とのこと。

「『家で最期を迎える』という本人の希望を叶えるのなら、退院してもいいし、このまま病院で最期を迎えてもいいし・・・どちらが良いのか相談したい」と話をされた。

 

私は「やれることがないのなら、妻のためにもできるだけ早く家に連れて帰ってあげたい」と答えた。

 

先生は「尿が出ないと決まったわけではないから、尿が出るか週末の間に様子を見るという手もあるんだけど・・・」

「今の状況では、週末まで待ってしまうと、家に帰るタイミングを逃してしまうかもしれない。」

「それなら早く帰った方が良いでしょう。」

「明日退院できるように調整しましょう。」と言ってくれた。

 

私は「退院後に何があるかわからず心配なため、訪問診療の先生に対応してもらえないか確認して欲しい」と先生にお願いして診察室を後にした。

 

帰りにサービスステーション前を通ると、看護師長が「帰りに病室に寄ってっていいですよ」と言ってくれた。

 

面会時間外なのに・・・

今まで産婦人科でこんなに丁寧な対応してもらえたことはなかったな。

今の妻の状況では、もうピリつく要素もないのだろう・・・

 

病室に寄ってみると、妻は昨日よりもさらに調子が悪そうだった。

声もあまり出ていない。

 

妻は「いつ・・・帰れるんだろう・・・」

「いつになったら・・・良くなるんだろう・・・」

「早く・・・家に帰りたい・・・」と、ツラそうにこぼしている。

 

そんなツラそうな顔で言われたら、「もう良くならない」なんて言えないし、「今週末、来週が山場になる」なんて言えるわけもない。

だけど嘘をつくわけにもいかない。

苦しんでいるのは妻だし、知る権利もあるし。

 

「このまま尿が出ないと良くならないし、ここ1週間が踏ん張りどころみたい。」

「あとは尿が出てくれるのを待つしかないんだって。」

「病院でできることは、もう無くなってしまったんだって・・・」と伝えた。

 

「だから『できるだけ早く退院したい』ってお願いしておいたよ」

「明日退院できるように準備してくれるって」と・・・

 

少し妻と話をして「また、今日の午後の面会時間に来るね」と言って部屋をでた。

 

病院の駐車場で、車の中から訪問看護師さんへ連絡した。

「とりあえず訪問入浴やリハビリなど、今後の予定をすべてキャンセルしようと思っています。」

「その分、代わりに家に来てもらえないですか?」と確認した。

 

あまりに不安過ぎて・・・

訪問看護師さんに少しでも家にいてもらえると気分が落ち着く。

訪問看護師さんは「状況が状況だけにできる限り対応しますよ」と言ってくれた。

 

電話が終わると、堰を切ったように涙があふれ出てきた。

とうとう来る時が来たという実感。

もう妻と話すこともできなくなるし、一緒にテレビを見て笑うこともできない。

息子と笑顔で話す姿も見れなくなるということだ。

なんだろう・・・全然涙が止まらない。

 

気持ちが落ち着くまで、駐車場で過ごした。

そして、訪問入浴やリハビリさんに連絡し、全ての予定をキャンセルした。

それぞれの業者さんに、これまでのお礼を伝えた。

 

病院の駐車場を出て、帰りの車の中で先生から着信があった。

「訪問診療の先生が、明日は都合が悪く、今日の夕方なら伺える」との連絡だった。

「だから明日ではなく、今日のうちに退院の手配をするから迎えに来れないか」とのことだ。

 

「すぐに準備をして迎えに行きます!」と言って、一旦家に戻り、準備をしてから病院に行った。

 

退院の荷造りをして、会計して、退院後の飲む薬や、貼り薬などの話を聞いたり・・・

先生や看護師さんは、急いで訪問看護師さんや訪問診療の先生に向けた診療情報を整理して準備してくれた。

 

先生は、忙しいはずなのに妻が入院している病棟で待ってくれており、私たちをエレベーターまで見送ってくれた。

私は「何かあれば事前に連絡してから来ます、ありがとうございました」と言って、深く、深く頭を下げた。

 

1年半、寄り添ってくれた先生への感謝の気持ちが伝わっただろうか。

この「ありがとうございました」は、「(1年半の間、今まで寄り添ってくれて、親身に対応してくれて)ありがとうございました」であり、これが先生との最後の挨拶だ。

妻の前でそんなことは言えないから・・・

 

◆◆◆本記事は以下からの抜粋です。続きはこちらから◆◆◆

 

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