今日も息子を幼稚園に迎えに行ってから、病院へ行った。
いつものようにサービスステーションで看護師さんに荷物を渡す。
すると、奥から看護師長が出てきて「会っていく?」と声をかけられた。
今はコロナ禍なので、お見舞いは全面禁止、病室には入っちゃダメ、荷物はサービスステーションで受け渡し、というルールで運用されている。
妻が入院してから約10日。
私も息子も、これまで妻には全く会えていない。
だけど、看護師長が「こんな小さな子供がいて、本人もツラい状況だし気が滅入っちゃうでしょ?顔見せてあげたら?」と言ってくれて。
妻が入院している個室に案内してくれた。
粋な計らいだった。
病室に入り、目が合うと、妻は「はっ!」と言って、とても驚いた顔をした。
その直後、ボロボロ大粒の涙を流しながら、大声を上げて泣き始めた。
一緒に生活して約10年、涙を流して泣いているところを見たのは始めてだ。
妻はとてもドライな人だし、あまり感情を表に出す人ではない。
泣ける映画を見ても目を赤くするだけで、涙がこぼれることは絶対にない。
そんなドライで感情を表に出さない妻が、大粒の涙をボロボロ流して、大声を上げて泣いている。
よほどツラかったのだろう。
2,3日の入院のはずが・・・
痛みはどんどん増して薬の調整はうまくいかない。
「便と尿は一生自力で出来ない」って言われて。
左足は動かなくなってしまって。
退院できるのかもわからない。
私へのLINEでは、いつも前向きなメッセージを送ってきている。
だけど、不安でいっぱいだったんだろう。
不安だからこそ、前向きに考えていたのかもしれない。
面会のお許しは出たが、あまり長時間の面会はできないので、10分ほどで今日の面会は終了した。
「バイバイ」とお別れして帰ろうとすると、先生から「2人で話がしたい」と呼び止められた。
現在の状況とこれからの予定についてだ。
面談室に入ると、まずは現在の状況について話しをされた。
「病理検査の途中経過では、骨が原発でないことが確かだ」という。
「子宮にも小さな腫瘍があるが、これは原発ではなく、一番大きい肺の腫瘍が原発の可能性が高い」らしい。
「これからどのような腫瘍なのか、遺伝子検査も行って、本格的な治療を行う」とのことだ。
また「抗がん剤は相性もあるので、相性がよければ効果はあるし、相性がわるければ効果がでないので、そこは覚悟してほしい」
「抗がん剤によっては、日常生活ができる体力がある人じゃないと使用できないこともある」らしく、妻の現状から考えると「抗がん剤治療を見送るケースも考えられる」そうだ。
先生から妻には「排便、排尿が一生治らない」ということは伝えてあるが、「奥様は納得できていないようで、リハビリもかねて自力での排尿を試してみたが、だめだった」とのこと。
私がこれまで妻とやりとりする中で、この件については受け入れているように思っていた。
だけど、先生から見た感じでは「この現実を受け入れるのも精一杯だと思う」とのことだ。
左足の件についても話があった。
「動かしにくい程度の場合、放射線治療が進めば圧迫がとれてリハビリで動くようになる可能性がある」
「だけど奥様は、今左足を全く動かすことができない」
「この場合、放射線治療を行っても改善はみられない」とのことだ。
先生も「左足のことについて直接聞かれれば嘘はつけないので、しっかり話すつもり」らしい。
だけど「直接聞かれない限りは、濁すようにしている」とのこと。
「排泄の件で現実を受け入れるのに精一杯の状態で、追い打ちをかけることはしたくない」と・・・
面会についても「特別に病棟内で検討」してくれるとのことだ。
「子供が小さいことと、状況が状況だけに、精神的な面も考えると、配慮していきたい」と言ってくれた。
退院については「今歩けないことを考えると、退院後の生活も考えてリハビリの計画が必要」とのことだ。
リハビリをしながら退院を決めなければいけないらしく、
「長期の入院を覚悟してほしい」と言われた。
「今は個室に入院しているけど、金銭面の負担も大きくなるので、大部屋への移動も奥様と相談した方が良いだろう」とのことだった。
腫瘍の骨への転移については「骨盤、背骨、肩、首と相当広範囲です。」とのこと。
「よって、当てられる線量などの制約もあるため放射線治療ですべては対処できない」とのことだ。
「奥様は、今『左腕も動かしにくい』と言っているので、首の腫瘍が神経にあたり始めているかもしれない」とのことだった。
先生が言うには「とにかく進行が速すぎて、対応が後手後手にまわってしまっている」とのこと。
「正式な検査結果がでれば、抗がん剤などを使った化学療法が始められるが、それまでは影響のあるところを後追いで放射線治療で対処していくことしかできない」らしい。
最後に治療について。
「1つ2つの腫瘍である場合、手術して根治という方向で考えるが、ここまで広範囲の場合は、治す治療ではなく、腫瘍と共存しながら、進行を防ぐことが目的になる」とのこと。
先生は遠回しに言ったが、要するに、延命治療ということだ。
妻の命は終わりが見えつつあるということ・・・
先生の話は終わったが、私はただ聞いていることしかできず、何がなんだか分からない状態。
先生の話は、私の想像をはるかに超えていた。
自分なりに、今わかっている情報から色々調べて、かなり進行していることは理解していた。
私は、心のどこかで「もしかしたら奇跡的に治るなんてこともあるんじゃないか」と思っていた。
だけど先生から「直接治すための治療はできない」と言われて、妻には「残された時間が少ない」ことを実感させられた。
この話は重かった。
人生で経験して事がないくらい重かった。
だけど、まだ妻には言える状況じゃない。
でも、もう私一人で抱え込めるレベルではないかもしれない・・・
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