#032 希望から一転し一時危篤状態へ

入院中
4月1日(木)

今日から新年度。

息子はしばらくは預かり保育であるが、年中さんとして新たなスタート。

妻からは、朝「これから輸血する」と連絡があった。

先生からは「治療をしない場合、今後輸血はしない」と言われていたのだが

分子標的薬を飲み始めるので方針が変わったのかな?(以下、参考記事)

 

副作用の可能性が少ない薬を飲み始めることができるようにはなったが

妻は昨日よりも調子が良くないようだ。

息子を連れていくと疲れちゃうだろうから「今日も俺一人で行こうか?」と妻にメッセージ。

すると「うん、お願いします」と返信があった。

さらに「どうしよう、妹が来てるのに・・・」と。

 

昨日、妻のご家族は帰ったのだが、妹さんだけ病院近くのホテルに滞在していた。

「できる限り面会したい」とのことだ。

妻は家族と面会すると気疲れしてしまうようだ。

心配させたくないため、気を張ってしまうらしい。

 

特に来週からは、お義母さんが仕事を辞めて、うちに滞在しながら毎日面会する予定になっている。

そのことも気にしているようだった。

姉妹からお義母さんが、毎日泣いているという話を聞いているらしく

お義母さんを心配させないように元気なところを見せなければいけないし

「せっかく仕事を辞めてまで来るから断るわけにもいかないし、どうしよう・・・」と悩んでいた。

 

お義母さんの面会については、実は私からお願いしていたのだ。

お義母さんが仕事を辞めて妻の世話をしたいと言っており

お義父さんからもお願いされたとの話を聞いたので

「それなら、うちに滞在して、毎日妻が食べたいものなど差し入れてもらえると助かります」と私からお願いした。

私は仕事があるため昼間差入れするのは難しいし、母親として娘の最期を看取ってあげたいだろうと思ったから。

それが逆に妻に気を遣わせてしまうことになるとは・・・

「とりあえず苦しかったら、俺から断ってもいいし、看護師さんにお願いして何分以内でとか制限つけてもらえばいいんじゃない?」と話をして

「そうだね。わかった。頑張る」ということで落ち着いた。

 

面会の問題は、なかなか難しい・・・

体調が良ければいいけど、体調悪いときは、息子がいる時でも気を遣うらしい。

かまってあげることもできないし、部屋で動き回る息子が気になって落ち着かないんだとか・・・

だけど、一人では不安なので、私には「できるだけ居て欲しい」とも言っており・・・

とりあえず私が仕事中行ける時は行ってあげようかなと考えている。

 

今日は朝から妻とのやり取りが頻繁だった。

だから妻が「調子が悪い」と言いつつも、意外と良いのかなと思っていたのだが・・・

 

お昼ごろにまた病院から電話がかかってきた。

看護師さんからの電話だった。

「今朝から更に酸素の取り込みができない状況になっています」

「今は鼻にチューブを入れて酸素を取り込んでいますが、この方法ではこれ以上の酸素は取り込むことができない」とのこと。

「そのため、他の方法を提案していますが、奥様が拒絶しているため、先生から旦那様に状況を説明したい」ということと、

「奥様の説得をお願いしたい」とのことだった。

「何時頃来られますか?」と言われたが・・・

今はお昼前だが、月初で仕事が山積み。

「早くても2時くらいになってしまう」と回答した。

しかし看護師さんは「できればすぐにでも来てもらった方が良い」と。

相当緊急なようなので、今日の予定をすべてキャンセルして、すぐに病院へ向かった。

 

先生が外来の合間をぬって来てくれたので話を聞く。

「マスクをあてたり、鼻からチューブで酸素を入れていても、血中酸素濃度が90%前後で、この状態が長く続くと身体へダメージを与えてしまい、状態もどんどん悪化していく」ということだった。

先生は「奥様に肺に直接酸素を送り込む機械を使った方法を提案しているが、本人が拒絶しており、酸素が取り込めない」とのこと。

「最悪の場合、薬で意識がない状態にして、機械を使って酸素を送り込むしかない」ということだ。

「その場合、分子標的薬が効けば、症状が改善して今まで通り酸素を取り込むことができるようになるかもしれない。」

「だけど、効かなかった場合、どんどん悪化してしまう。」

「すると、そのまま集中治療室で人工呼吸器を使わなければいけないし、その場合、がんの進行も止まらないので、眠ったまま息を引き取ることになるかもしれない」とのこと。

さらに「眠ったままの場合、鼻から薬を胃に送りこむらしいが、眠った状態で薬の効きが、どうなるか」も不安要素だという。

「どのように対処するか判断してもらいたい」とのことだった。

先生の提案を拒絶しているということも気になったため、「一度本人と相談させてください」と、先生にお願いし、それから結論を出すことにした。

 

病室へ入ると、ぐったりした状態で、身体全体で大きく息をしている妻の姿があった。

正直見た瞬間、素人の私でも、これは一晩持つのか?と心配になるほど酷い状態だ。

話をさせることも心苦しい状況であったが、話を聞いてみると。

 

「くる・・・しい・・・」

一息で一単語すらしゃべれない。

朝から、どんどん苦しくなっているらしい。

ここ数十分の間でも、苦しさが増しているという。

早く楽にしてほしい、この苦しみをとってほしいと訴えていた。

 

もう私も我慢できずに涙があふれだしてしまう。

妻の前でこんな号泣するのは初めてだった。

私が「もうしゃべらなくていいから」というと。

妻は「泣か・・・ないで・・・」と

「大・・・丈夫・・だから・・・」と。

こんな状態で大丈夫なわけがない。

 

先生の提案は何でダメなのか聞いてみた。

一度試したときに内側からの肺への圧迫感や違和感がトラウマになってしまったとのこと。

これをやるくらいなら今の苦しいままで良いということだった。

 

「でも、もう次のことを考えないと、身体がもたないんだよ」と説得をするが。

もうこの話はしないで・・・ギリギリまで結論を引き延ばしたいから、と言うだけ。

病室を出て看護師さんに聞いてみる。

「どこまで待てるのか・・・」

看護師さんは「その余裕はない」とのこと。

 

妻は、この先どうなっちゃうんだろう、苦しいし不安だし、どうにもならないと言っている。

とりあえず少し落ち着くためにも、しゃべらせるのを止めさせて少しリラックスさせた。

 

少し落ち着いたところで、少し話題を変えて息子の話をした。

今日から年中になるので、預かり保育でお昼寝の時間がなくなることを伝えると、息子は喜んで幼稚園に行ったこと。

(※年中からお昼寝がなくなるシステムで、息子はお昼寝が大嫌いなので)

「年少で使っていた名札は、ママのお守りにプレゼントするね」と言っていたことなどなど・・・

 

だけど話している間にも、苦しさは増しているようだ。

妻は早くこの苦しさを取ってほしいと訴え続ける。

「そこまで嫌なら、先生から眠った状態で酸素を取り込む方法もあると言われたよ」と話した。

「眠っているので苦しさは感じないかもしれない。」

「だけど、この方法の場合、薬が効かなければ眠ったまま息を引き取ることになる可能性がある」ということも伝えた。

妻は、もう意識が戻らない可能性に不安を感じるようだ。

 

「あなたならどうする?」と妻に言われた。

今の私には妻の痛みも苦しみも理解できない。

だから、頑張れなんて無責任なことは言えない・・・

 

「ごめん」としか言えなかった。

 

「でも、今までずっと痛みを我慢して、尿ができなくなり、便がでなくなり、両足が動かなくなり、左腕も上がらない、顔の左半分も麻痺し始めて、呼吸困難で、今までこんなにも苦しい思いをしてきて・・・、それでも肺に直接酸素を入れる方法が嫌と思うのなら、自分が一番楽だと思う方法を選んでいいよ」と言った。

「先生の言っていた方法は、数日間は眠った状態になるかもしれない。」

「意識が戻るのか心配なのはわかるけど、その時は、俺が昼間も来てずっと手を握ってるし、夜も息子を連れてきて手をずっと握るし、意識がなくても毎日ずっと近くにいるから、ちゃんと見てるから、心配しなくていいから、楽な方法を選んでいいよ」と言った。

妻は、「ありがとう、それならその方法で良い」と言ってくれた。

 

先生にも妻との話を伝えた。

先生は「わかりました。その前にやれることをやっておこう」と言って

「肺に溜まった水を出す処置をしよう」と準備を始めてくれた。

 

妻の意識がなくなる場合、これが最後の会話となる可能性もある。

幼稚園に電話して、急いで息子を迎えに行った。

また、近所に滞在している妹さんにも連絡。

「急いで面会に来てもらうよう」お願いをした。

 

息子を幼稚園に迎えに行って戻ると、処置が終わっていた。

水を約1リットルほど抜いたらしい。

妻の様子を見ると、だいぶ呼吸が安定していた。

水を抜いたことで肺の圧迫がとれたので楽になったようだ。

 

診察室へ呼ばれたので一人で行ってみると

「ひとまずは、呼吸が安定したのでこのまま引き続き様子を見て、酸素を減らしてみよう」とのことだった。

 

また、今後同じような状況に置かれた場合の対処方法についても聞かれた。

「とりあえず今日決めたやり方でやってください」とお願いした。

すると、さらに突っ込んで「それでも酸素が取り込めない場合、人工呼吸器を装着したいかも決めてほしい」と言われた。

私は「飲み始めた分子標的薬の効果があると考えられるなら人工呼吸器を装着してほしい」

「けど効果がないと考えられる場合は、これ以上苦しい思いをさせたくない」と答えた。

病室に戻ると、処置の時に麻酔を使用したのと、苦しみから解放された安心感からなのか、妻は眠ってしまっていた。

今日は家に帰ることにした。

 

夜は、このまま呼吸が安定して分子標的薬の効果が出ることを息子と一緒に神棚の御札にお願いして就寝した。

息子を寝かしつけていると・・・

「起きたら誰もいなくて怖かったんだけど・・・」

「あんなに苦しかったのに誰も居ないなんてありえないから、死んじまったのかと思った(笑)」とメッセージが来た。

冗談を言う余裕があるなんて、相当楽になったのかもしれない。

結局、肺に溜まっていた水のせいというオチだったけど

とにかく無事でよかった。

ほんとうに安心した。

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